WAITINGROOM(東京)では、2018年5月19日(土)から6月17日(日)まで、川内理香子の個展『Tiger Tiger, burning bright』を開催いたします。川内は、食への関心を起点に、身体と思考、それらの相互関係の不明瞭さを主軸に、食事やセックスといった様々な要素が作用し合うコミュニケーションの中で見え隠れする、自己や他者を作品のモチーフとして、ドローイングやペインティングをはじめ、針金やゴムチューブ、ネオン管など、多岐にわたるメディアを横断しながら作品を制作している新進気鋭のアーティストです。当ギャラリーでは2年ぶり2度目の個展となる本展では、ペインティング、ドローイング、針金による半立体作品に加え、初めての試みとして樹脂を用いて制作された立体作品を含む、約25-30点の新作で構成されます。
(左)『コレクターとアーティスト:川内理香子』2015 会場:T-Art Gallery(東京) 撮影:松尾宇人
(右)『Shiseido Art Egg Vol.9:Go down the throat』2015 会場:資生堂ギャラリー(東京) 撮影:加藤健
作家・川内理香子について
1990年東京都生まれ。2017年に多摩美術大学大学院美術学部絵画学科油画専攻を修了。現在は東京を拠点に活動中。近年の展覧会として、2017年個展『Something held and brushed』(東京妙案GALLERY / 東京)、グループ展『ミュージアム・オブ・トゥギャザー展』(スパイラル / 東京)、個展『NEWoMan ART wall Vol.7: Rikako KAWAUCHI』(NEWoMan ART wall, JR 新宿駅ミライナタワー改札横のディスプレイ / 東京)、2016年個展『ART TAIPEI 2016 – WAITINGROOMソロブース』(Taipei World Trade Center / 台北・台湾)が挙げられます。また、2014年に参加した公募グループ展『第1回CAF賞展』での保坂健二朗賞、2015年SHISEIDO ART EGG賞受賞など、若手ながら確かな実力を持つ注目の作家です。当ギャラリーでの個展は、2年ぶり2度目となります。
特定の部族の間では食が神話の始まりに置かれている。
生のものと火を通したもの。体の中で起こる消化や腐敗、そして排泄。料理で扱われる火やカマド、土器。彼らはそれらに、人間の知恵や文化の始まりを見出している、とレヴィ=ストロースは神話を分析する。
社会や文化、哲学といった、世界の始まりは食べ物を口にする体から始まる。
食べる、というどの身体にも必要不可欠で触れざるをえない、常に体を取り巻く事象。
私はどうやらそんな食への行為に人よりも敏感で独特の感覚を持っているようだ。そんな私にとって強く共感できる、食に対する共通の感覚や思考が神話の中に立ち現れた。抽象的でもある、その感覚や思考を、彼らは執拗に具象的なものへと落とし込み、具体で思考していた。
動物、植物、身の回りにあるものを概念化し記号化させ、その記号を方程式のように繋げ、物語を作り出す。物語は物語として繋がっているのではなく、具象物の裏に象徴された意味の連鎖だ。
食というパイプを通して、彼らの諸概念が私のイメージにも流れくる。
川内理香子 2018年3月
食への関心を起点に、身体と思考、自他の不明瞭さとその揺らぎをモチーフとするきっかけになった出来事として、川内は、自分の身体が他者のように思えた経験を挙げます。例えば食べ過ぎたときや風邪をひいたとき、普段は自身の体を保持し、意のままに動かしていると思っているものの、本来はその逆で、生々しい肉体それ自体が、自身の意識や精神をも規定しているように感じられるのだと言います。
本展のタイトル『Tiger Tiger, burning bright』は、ウィリアム・ブレイクの詩「The Tiger」から引用されています。詩に詠まれている、虎の炎のような輝きは、その内に潜む情動やエネルギーのたぎりを表現していると言えるでしょう。火を操ることで文明を発展させ、歴史を紡いできた人類の中にも、そのたぎりは確かに存在し、目に見えずとも赤々と燃えているそれは、きっと実際の炎と同様に、人類の歴史の一端を担ってきました。
川内は自身の制作について、肉体と精神、そして自己と他者の間に存在する「コントロールできない領域を一瞬のうちに留め、常に動き続ける不安定な状態のものに、つかの間の理解と変化を促す境界探しの綱渡り」と語っています。「絶対的な物質である肉体と目に見えない精神、そして自己と他者。対立する両者はどのように繋がり、重なり合い、分断し、共に動いているのか。」動き続けるそれらの揺らぎをも「美しさ」として受け入れ表現することで、常に進化を続ける川内の新作群に、是非ご期待ください。
(左)『ミュージアム・オブ・トゥギャザー展』2017 会場:SPIRAL(東京) 撮影:木奥恵三
(右)『NEWoMan ART wall Vol.7:川内理香子』2017 会場:NEWoMan ART wall(東京)撮影:松尾宇人