大久保紗也『Box of moonlight』

2022年11月26日(土)- 12月25日(日)
・営業日:水~土 12:00~19:00 / 日 12:00~17:00
・定休日:月・火・祝日
・オープニングレセプション:11月26日(土)18:00-20:00 *作家が在廊します
プレスリリース
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WAITINGROOM(東京)では、2022年11月26日(土)から12月25日(日)まで、大久保紗也の、当ギャラリーでは2年ぶり3回目となる個展『Box of moonlight』を開催いたします。大久保は、輪郭線として表現される記号的なイメージと、物質感を伴う抽象的な像のうねりという、二つの分離した要素を共存させた絵画作品を主に制作しています。本展では、大久保が初めて取り組んだ立体作品の新シリーズを初公開いたします。石塑粘土で細部まで具象的に造形された人型のオブジェの上に、磨りガラスのように曇ったアクリルボックスを被せ、大久保の絵画作品に特徴的な、輪郭線の揺らぎやモチーフの混ざり、それらの視認の曖昧さといった要素を、新たな素材を用いて表現した新シリーズとなります。加えて、これまで大久保が支持体として用いてきた波形のトタン板が、さらに屋根状に折れた素材を支持体とする、より立体感を増した新作の絵画作品も発表いたします。


“Two Sorrows”(部分), 2022,
clay, acrylic paint, LED light, acrylic box, steel, H356×W310×D310mm

作家・大久保紗也について
1992年福岡県生まれ、2017年に京都造形芸術大学大学院・芸術専攻ペインティング領域を修了。現在は京都を拠点に活動中。近年の展覧会として、2022年個展『The mirror crack’d from side to side』(六本木ヒルズA/Dギャラリー/東京)、個展『We are defenseless. / We are aggressive. (無防備なわたしたち/攻撃的なわたしたち)』(三越コンテンポラリーギャラリー/東京)、2020年個展『They』(WAITINGROOM/東京)、2019年グループ展『大鬼の住む島』(WAITIINGROOM/東京)、2018年個展『a doubtful reply』(WAITINGROOM/東京)、2017年グループ展『美大生展2017』(SEZON ART GALLERY/東京)、2016年グループ展『movement 2016 – 1st movement -』(ARTZONE/京都)、2015年グループ展『HERE I AM KUAD x TUNA交流展』(Na pai Art Gallery/台湾)などが挙げられます。2017年秋に参加した公募グループ展『第4回CAF賞入賞作品展』(代官山ヒルサイドフォーラム/東京)で白石正美賞を受賞。以降、若手ながらその作品は常に注目を集め続けています。


“They”, 2022, acrylic, and oil on corrugated plastics sheeting, H1237×W942mm

アーティスト・ステートメント

ヒトラーがまだ只の少年だった頃、
日本とドイツ、月下で男女が語らい合っている
ひとつは告白された罪を赦し、
ひとつは赦しを請うものを仮借なく非難した
世界が大戦へと歩みを進めていた時、
二つの月夜で語られた非対称の赦しは
現代の私を照らしおぼろげな輪郭を作っている

今回の作品にてモチーフとしたのは、二つの物語で語られた「赦し」について。
ひとつは、リヒャルト・デーメルが 1896 年に刊行した『女と世界』に収められている「浄められた夜」。
もうひとつは、デーメルの「女と世界」が刊行された翌年、1897年から読売新聞で連載された尾崎紅葉の「金色夜叉」。
どちらの作品も月の光の下で、男女が罪と赦しの話をするシーンがあり、
一方は罪を赦され、もう一方は拒絶されます。
しかし物語が書かれた背景までも射程に入れるとき、その罪と赦しの関係はやや変容していく。
太陽からの光によって存在を確認できる月、そしてその月の光の中でかろうじて認知できる輪郭を探り、変容する罪と赦しの形の表しを小さな箱の中で試みたのが「Box of moonlight」です。

大久保紗也

様々なレイヤーが分離しながら混ざりあいながら存在する人間の「どうしようもなさ」

様々なポーズをとる人間の姿や人体のパーツを表すドローイングの線、その間に見える色や抽象的な模様、トタン板の立体感やその間に挟まった油絵具のかたまりなど、大久保紗也の作品は、いくつもの要素が重なり合いながら厚みをもって存在しています。それらは、鑑賞する側が注目したい場所により、時に混ざり合い、時に別々に見えてきます。
本展で発表される新作の制作にあたり、大久保は二つの物語からモチーフをとっています。リヒャルト・デーメルの『浄められた夜』では、月光の下で林を歩く男に、女が行きずりの男との子供を身ごもっていることを告白しますが、男は女を赦します。この詩を書いた時、デーメルは妻子がありながら妊婦の女性と不倫関係にあったため、月光の下で救済を求めたのは他ならぬデーメル自身であるとも言えます。同時期に書かれた尾崎紅葉の『金色夜叉』でも、月夜に女が男に赦しを請うシーンがありますが、男はこれを拒絶し、女は自らの行いを後悔し続けます。この物語の翻案であるバーサ・M・クレー(シャーロット・メアリー・ブレイム)の小説『Weaker than a Woman(女より弱きもの)』ではヒロインは堂々とした女性として描かれており、『金色夜叉』の女性は「明治の夫人の権化」であることがわかります。
「『真実』や『正確さ』とは常に受け取った個々の中で変容していくものです」と大久保が言うように、人間の姿を表す輪郭線は手癖や思い込みの上で引かれており、それらを崩すような抽象的な要素は、個々にも、同時にも捉えることが可能です。立体と平面、具象と抽象の間を行き来しながら、それらが混ざり合って一つの作品の中に凝固して存在する。齟齬や間違いを引き起こす人間の「どうしようもなさ」と向き合いながら、立体作品という新たな表現に挑んだ大久保の新作群に、ぜひご期待ください。

アーティスト
大久保紗也
Saya OKUBO