高田冬彦『LOVE PHANTOM 2』

2021年1月30日(土)- 3月7日(日)
・営業日:水~土 12:00~19:00 / 日 12:00~17:00
・定休日:月・火・祝日

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プレスリリース
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WAITINGROOM(東京)では、2021年1月30日(土)から3月7日(日)まで、高田冬彦の個展『LOVE PHANTOM 2』を開催いたします。高田は、宗教、神話、おとぎ話、性、ジェンダー、ナルシシズム、トラウマなど、多様なテーマやイメージを扱ったポップでユーモアあふれる映像作品を制作しています。そのほとんどは作家の自宅アパートの密室で撮影されており、手作り感あふれる演出と時折登場するエロティックな表現が最大の特徴で、一見すると荒唐無稽なストーリーは、人間社会に対する様々な問題提起をはらんでいます。本展では、思春期の少年の性をテーマにした新作映像『The Princess and the Magic Birds(仮)』と他2点の新作、関連する旧作2点の計5点の映像作品を展示いたします。WAITINGROOMでは初めての開催となる高田冬彦の、作家としても2年ぶりの新作個展にぜひご期待ください。


『The Princess and the Magic Birds(仮)』2020-2021年(ビデオスチル)

作家・高田冬彦について
1987年広島県生まれ。2017年に東京藝術大学大学院・美術研究科・博士後期過程・油画研究領域を修了。現在は千葉県を拠点に活動中。近年の主な展覧会に、個展『MAMスクリーン011: 高田冬彦』(森美術館/2019)、グループ展『不可能な人』(TAV GALLERY/2019)、個展『Dream Catcher』(Alternative Space CORE/2018)、個展『LOVE PHANTOM』(Art Center Ongoing/2017) 、グループ展『SPRING FEVER』(駒込倉庫/2017)、個展『STORYTELLING』(児玉画廊/2016)、グループ展『MOTアニュアル2016 キセイノセイキ』(東京都現代美術館/2016)、グループ展『Super Body Maniac』(児玉画廊/2015)、グループ展『現在幽霊画展』(TAV GALLERY/2015)、個展『MY FANTASIA II』(Art Center Ongoing/2014)、個展『MY FANTASIA』(児玉画廊/2013)、グループ展『II TENKI group show with Japanese artists』(WILLEM BAARS PROJECT、アムステルダム・オランダ/2013)、グループ展『EMERGING / MASTER 1 会田誠 | 美術であろうとなかろうと』(トーキョーワンダーサイト本郷/2011)などが挙げられます。

高田冬彦が描く、コロナ感染拡大下の「性/生命賛歌」
宮津大輔(アートコレクター)

 日本列島を太平洋に向け屹立したペニスと見立て、素戔男尊(すさのうのみこと)に扮したアーティストによる破壊と再生が、東日本大震災からの復興を想起させる《JAPAN ERECTION》(2010年)。更には多様な性差是認や前時代的な男尊女卑思想・制度の崩壊を示唆する《Cambrian Explosion》(2016年)あるいは《Dream Catcher》(2018年)を挙げるまでもなく、高田冬彦の作品は、ストレートな性的表現や性器を思わせるモチーフの使用を禁忌とせず、時にスラップスティック※1的でありながら、その背後には時代精神に対する鋭い批判を含んでいます。

 新型コロナウイルス蔓延により従来の価値観を見直さざるを得なかった2020年、高田は《The Princess and the Magic Birds (仮)》(2020-2021年)や《1001 seconds》(2020年)といった新作を制作。それらを携え、WAITINGROOMにおいて2年振りとなる新作個展「LOVE PHANTOM 2」を開催します。


『1001seconds』2020年(ビデオスチル)

 まずは、本展を象徴する《1001 seconds》について紹介したいと思います。この作品は水面に映った姿を我とは知らず恋焦がれ、遂には命を落とすギリシャ神話の美少年ナルキッソスをモチーフにしています。自己愛や他者否定を意味するナルシシズム※2の語源となった悲劇譚は、スマホという鏡面に映るSNSや自撮り写真を通じた歪んだ自己偏愛、更にはコロナ禍で加速する米中貿易摩擦や移民排斥といった「エスノセントリズム」※3さえ思い起こさせます。

 他方タイトルからは、小説家・稲垣足穂(1900~1977年)※4の代表作『一千一秒物語』(1923年)の影響を窺わせます。足穂は少年愛を論じた『A感覚とV感覚』(1954年)において、A感覚※5を「あの外部と隔離された小室は、人間がそこに本来的自己を取り戻すべきような場所」※6であると論じています。そして「幼年期には浣腸器、ゴムや金属製の医療機器などを仲介にして、自他の肉体の”その部分(=肛門及び臀部)”に関心を抱くが、彼らは大抵孤独だから空想上あるいは現実上の鏡を必要とする。この鏡に関与することを以ってナルシシズムと称する」※7と、A感覚が有する鋭敏な“自己肯定”機能についても言及しています。

 高田はかつて臀部に施したインクの染みを用いて映像作品《STORYTELLING》(2014年)を制作していますが、”自己を取り戻すべき場所”で無意識を最大化させるロールシャッハ・テスト※8を行うことは、《1001 seconds》への伏線であったのかもしれません。

 また、同作後半部分では、放屁を思わせる爆裂音と共に場面が急転換します。それは画面を注視する我々が、正に”我に返る”瞬間でもあるのです。まるで自らの美しさに魅入られたナルキッソスを死の誘惑から連れ戻す号砲や、緊急事態宣言下における”自宅への流刑”から覚醒を促すトリガーであるかのように。もっとも13世紀の英国王ヘンリー2世(Henry II, 1133~1189年)に仕えたローランド放屁師※9や、我が国の民話に登場する幸せを呼ぶ「屁ひり女房」※10が例示するように、放屁は単なる排泄行為に留まらず、時に祝砲や芸術へと昇華し得る可能性すら秘めているのです。これらのことからも、A感覚は「インテリジェンスへの関心があって、学芸のいとなみにまで展開」※11しているといえます。


『Love Phantom』2017年(ビデオスチル)

 一方映像スケッチ的な作品である《Love Phantom》(2017年)は、まるで漫画『寄生獣』(1988~1995年連載)※12の主人公・泉新一と寄生生物ミギーの関係性を連想させます。シンプルで他愛もない表現であるからこそ、同作品はティモシー・モートン(Timothy Bloxam Morton, 1968年~)※13が唱える「(新型コロナウイルスは)友であるかもしれないし、殺人鬼であるかもしれない両義的な存在」という思想に基づいた”コロナとの共生”※14を強く暗示させます。

 前述の作品に通底しているのは、一見ナンセンスな笑いの奥に潜む力強い「生命賛歌」の存在であるといえるでしょう。高田作品は、日々更新されるデジタル・カウンターの如き感染者数や死亡者数からは伺い知れない、個々に宿る「エロスとタナトス」(性/生と死、生きる情動と死の衝動)を高らかに謳い上げているからです。

 なお、本原稿執筆時点で《The Princess and the Magic Birds (仮)》(2020-2021年)については、思春期の性を扱った作品としか知らされていません。第二次性徴というある種の”怪物”を体内に宿した様を、彼がどのように描くのか?展覧会のオープンを、楽しみに待ちたいと思います。

<上記宮津氏寄稿文の注釈>
※1:無声映画に端を発し、激しい動きや誇張した演技、発作的な展開などを特徴とする喜劇を指します。「どたばたギャグ(喜劇)」ともいわれています。
※2:精神分析用語で、自己を愛したり性的な対象と見做す状態。
※3:自民族・自己文化中心主義。自らが属する民族や文化を絶対的な基準とし、他文化を劣った存在と判断したり、拒絶したりする態度や考え方。
※4:大正末期から1970年代にかけて、「模型少年」「天体嗜好」「飛行家願望」「少年愛の抽象化」などをテーマに数々の作品を発表した小説家。小説家で評論家の澁澤龍彦(1928~1987年)は、人間を口から肛門に至る一つの筒と見立てた『A感覚とV感覚』を、独自の一元的エロス論として高く評価しています。
参考)松岡正剛「稲垣足穂『一千一秒物語』」, 松岡正剛の先夜千冊, 2003年10月29日
https://1000ya.isis.ne.jp/0879.html
2020年12月24日閲覧


『Dream Catcher』2018年(ビデオスチル・参考図版)

※5:稲垣足穂は、A感覚(アヌス=肛門)、V感覚(ヴァギナ=女性器)そしてP感覚(ペニス=男性器)について、『A感覚とV感覚』を著しています。その中で、それぞれに関し「Vの方はセックスとしての自己限定であるが、Aの方はそうでない。ここに生殖(、、)の重荷を負わされたV感覚の本来的苦悩と、排便時以外はいっこうに顧みられないA感覚の宿命的不幸性がある。そんならP感覚とは何であるか?そんなものはもともと存在しない。何故なら、V感覚はA感覚から分離したものであり、このV感覚の更に裏返し(、、、)になったのがP感覚に他ならないからだ」と看破しています。
※6:稲垣足穂「A感覚とV感覚」, 『一千一秒物語』, 1969年, 新潮文庫, 382ページ
※7:前掲「A感覚とV感覚」, 『一千一秒物語』392ページより、筆者が一部抜粋・要約しています。
※8:1921年スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハ(Hermann Rorschach, 1884~1922年)が考案した心理検査。インクの染みを見せて何を想像するか述べてもらい、その内容を分析することによって被験者の思考過程を推定する方法です。
※9:放屁師は、屁を用いて様々なリズムや音高を生み出す古代から中世にかけて活躍した芸人です。当時は吟遊詩人やハープ奏者と同様に珍重されており、中世アイルランドではブライゲトイールと呼ばれていました。
参考)William Langland, “The Vision of Piers the Plowman”, 2018, Hard Press


『Cambrian Explosion』2016年(ビデオスチル・参考図版)

※10:大きな放屁を咎められた女房を実家に連れ戻す道々、往生した貨物船や柿の収穫で困っていた人々を放屁で助けたことにより、反物や馬を手に入れるという物語です(他にも様々なバリエーションが存在しています)。山形、秋田、埼玉、大分などに同様の話が伝わっています。
参考)野村純一、松谷みよ子監修『いまに語りつぐ日本民話集 第2集(4) うっかりやの嫁』2002年, 作品社
※11:前掲「A感覚とV感覚」, 『一千一秒物語』392ページ
※12:『モーニングオープン増刊』及び『月刊アフタヌーン』に連載された岩明均による漫画で、宇宙から飛来した謎の寄生生物ミギーと共生する高校生・泉新一の数奇な運命を描いています。
※13:米国の思想家でライス大学教授。イギリス・ロマン主義文学における食と表現の研究から次第に環境思想へと接近し、現在ではObject-Oriented-Ontology提唱者の一人として知られています。主な著書に『スパイスの詩学』 (2000年)、『自然なきエコロジー』(2007年)、『エコロジーの思想』(2010年)があります。
※14:以下を参考にし、一部引用しています。
「新型コロナは「敵」ではない。哲学者が説くウイルスとの「共生」」, Forbes JAPAN, 2020年4月18日
https://forbesjapan.com/articles/detail/33797
2020年12月24日閲覧


『Self-portrait as a Red Bird』2020年(ビデオスチル)

高田 冬彦(たかた・ふゆひこ)
1987 広島県生まれ
現在千葉を拠点に活動中

学歴

2017 東京藝術大学大学院 美術研究科博士後期過程 油画研究領域修了
2013 東京藝術大学大学院 美術研究科油画専攻 修士課程修了
2011 東京造形大学 デザイン学科写真専攻 卒業
2007 美學校卒業

個展

2019 MAMスクリーン011: 高田冬彦 – 森美術館(東京)
2018 Dream Catcher – Alternative Space CORE(広島)
2017 LOVE PHANTOM – Art Center Ongoing(東京) 
2016 STORYTELLING – 児玉画廊(東京)
2014 MY FANTASIA II – Art Center Ongoing(東京) 
2013 MY FANTASIA – 児玉画廊(京都)
2012 VENUS ANAL TRAP – Art Center Ongoing(東京)

主なグループ展

2019 不可能な人 – TAV GALLERY(東京)
2018 TERATOTERA祭り2018 – 三鷹駅周辺(東京)
2017 SPRING FEVER – 駒込倉庫(東京)
2016 MOTアニュアル2016 キセイノセイキ – 東京都現代美術館(東京)
2015 Super Body Maniac – 児玉画廊(東京)
    現在幽霊画展 – TAV GALLERY(東京)
2014 Drawing03 ¬preference – 澁谷画廊(東京)
2013 II TENKI group show with Japanese artists – WILLEM BAARS PROJECT(アムステルダム・オランダ)
    メメント・モリ ~愛と死を見つめて~ – 白金アートコンプレックス(東京)
2011 EMERGING / MASTER 1 会田誠 | 美術であろうとなかろうと – トーキョーワンダーサイト本郷(東京)
2010 NEO NEW WAVE – island(千葉)

主な上映

2018 Bodyscapes:new film and video from Japan – Fabrica(ブライトン他巡回)
2016 国立奥多摩映画館 -森の叫び- – 国立奥多摩映画館(東京)
2011 TERATOTERA祭り – 吉祥寺バウスシアター(東京)

その他

2018 演劇「地底妖精」市原佐都子(Q)とのコラボレーション作品 – 早稲田小劇場どらま館(東京)
2017 演劇「地底妖精」市原佐都子(Q)とのコラボレーション作品 – SCOOL(東京)
2015 BONUS  第2回 超連結クリエイション 牧神の午後篇 – VACANT(東京)

展覧会図録

「あなたは自主規制の名のもとに検閲を内面化しますか」ARTIST’S GUILD/NPO法人 芸術公社

掲載記事

田口美和・深野一朗「理想の滑稽さを求めてテイク40。高田冬彦のストレートな性的表現に潜む不完全性への愛」インタビュー、『MUUSEO SQUARE』、2020年4月8日、https://muuseo.com/square/articles/1315
宮津大輔「性にフォーカスしたスラップスティック的表現に潜む、時代に対する鋭い批評精神」レヴュー、『アートコレクターズ』、No.128、2019年11月号、生活の友社
島貫泰介/聞き手、文「自意識と葛藤のめんどくささを超えて」市原佐都子氏(劇作家)との対談、『美術手帖』、2018年10月号増刊、76ページ、美術出版社
住吉智恵「セルフィーが暴きだす「うしろめたさと胸騒ぎ」」レビュー、『アートコレクターズ』、No.109、2018年4月号、28ページ、生活の友社
Andrew Maerkle、レビュー、『ARTFORUM』、2016年9月号、385ページ
「僕の好きなアート」特集・会田誠氏による紹介記事、『POPAYE』、No.836、2016年12月号、107ページ、マガジンハウス
福住廉「アナーキズムの肉体」レビュー、『美術手帖』、1038号、2016年7月号、176ページ、美術出版社
小泉明郎、増本泰斗、藤井光 の鼎談内「コンテンポラリー・アート・プラクティス」『美術手帖』、1037号、2016年6月号、107ページ、美術出版社
卯城竜太、黒瀬陽平「日本のアート、最前線!」『美術手帖』、1021号、2015年5月号、35ページ、美術出版社
「六畳間から生まれるビジョン」『美術手帖』、998号、2014年1月号、ART NAVI内09ページ、美術出版社


『新しい性器のためのエクササイズ』2019年(ビデオスチル)

アーティスト
高田冬彦
Fuyuhiko Takata