このたび、waitingroomでは、9月15日(土)~10月28日(日)まで、増村真実子 個展『カサブタ』を開催いたします。
増村は1986年東京生まれ。祖父、父親がともに漆工芸作家という漆芸一家で育ちます。物心がついた頃から漆に触れていたという増村は、 東京藝術大学にて漆芸を専攻し、2011年に当大学大学院美術研究科工芸専攻 漆芸を修了。その後、春日部市に制作拠点を構え、国内外のアートフェア、グループ展に精力的に参加しています。
増村にとって初の個展となる本展では、過去の作品に新たに手を加えたものを含め、合計6点の乾漆作品、数点のドローイング作品を展示いたします。
増村の作品の特徴は、漆と乾漆という日本の伝統的な素材・技法を踏襲しつつ、現代的な感性でつくられたポップで、どこか懐かしさのある造形です。モチーフの多くは、子供でもなく大人でもない存在の少年少女。誰もが通る、未分化で、未発達なその像は、あどけなさを纏いつつも、強い意思と憂いを同時に秘めたような表情、そして幾重にも塗り重ねられた漆の艶やかで滑らかな質感と相まって、凛とした空気すら持っています。それは、縄文時代より用いられてきた漆が、増村の手によって、見る人の記憶に訴えかけるようなかたちで生まれ変わったようにも感じられます。
“漆”という素材は、うるしの木の幹につけられた傷を治すため、カサブタをつくるために滲み出てくる樹液を、少しずつ採取したものです。 私にとってのモチーフは、特別なものじゃなくて、誰でも知っている日常。自分がつくったものが、見てくださる一人一人の日常と絡み合い、そして心を覆うカサブタのような存在になってくれたら、と思っています。(増村真実子)
増村は、状態のコントロールが非常に難しい漆を「生き物」と呼び、だからこそ面白い、と言います。
幼少の頃より漆のある日常を過ごし、これからも漆とともに生きていく。その日常の中で漆の可能性を追求していきたい、と言う増村の瑞々しい感性が存分に発揮された力作群を、ぜひご覧ください。