企画:WAITINGROOM(キュレーション:木村こころ)として、2026年2月14日(土)から2月25日(水)まで、The Coffee Brew Club 内 NIOAA GALLERY TOKYO(東急プラザ原宿「ハラカド」3階)にて、Lea Embeliと山本れいらによる二人展『Whose Desire?』を開催いたします。AIとキャラクター表象という異なる領域を参照しつつ、両者はいずれも、特定のイメージが生成・流通・共有される過程において、そのイメージ自体、さらには私たちの内面へと取り込まれていく社会規範や権力構造を可視化することを試みます。ときに私たちの内側から欲望され、ときに私たちの身体を規定する「理想」。その過程で切り捨てられてしまう歪みや摩擦に目を向ける本展を、ぜひご高覧ください。

Left:Layla Yamamoto, Who said it was simple? 7, 2026, acrylic on canvas, 910 × 727 mm (Reference Image)
Right : Lea Embeli, Reformed from a swirl of ashes and starlight, 2025, acrylic, linen on panel, 900 × 1300 × 30 mm
「Whose Desire?(誰の欲望か?)」という問いは、欲望する主体と欲望される対象を切り分けることを意図しているように聞こえます。しかし本展においてこの問いは、「誰か」を指差すことに戸惑いを生じさせること、すなわち、社会規範としての理想像をめぐって、自己と他者、個人と集団の欲望が複雑に絡み合う様相に目を向けることを促します。
Lea Embeliは、西洋美術史の伝統的な女性像を引用し、それを現代における知能や理想の集合体ともいえるAIによって変形させます。ローマ神話の女神ヴィーナスをモチーフとする出展作品では、AI画像生成モデルによって生み出された複数の不完全なイメージが、キャンバス上で何層にも重ねられています。古代から現代に至る西洋美術史において繰り返されてきた「理想の模倣」という運動をなぞりつつ、同時に、AIとの対話から生じる誤読の痕跡を画面に留めるその手法によって、Embeliは一般化された理想像から抹消されてきた美の可能性を提示します。理想的とされるイメージを出発点としながら、それらが複製・生成される過程で生じる残滓や逸脱を集積するEmbeliの実践は、理想を規範として成立させる力と、それを内側から攪乱する力学の両方を可視化しています。
山本れいらは、アニメ・マンガカルチャーに内在する男性優位の視点やアートにおけるその周縁的な位置づけを切り出しつつ、フェミニズムやクィアの視点から新たなキャラクター表象を生み出すことを試みます。出展シリーズのテーマであり、男性中心主義的な社会構造によって分断されてきた女性たちを結び直す理念として掲げられてきた「シスターフッド」は、本来、差異を横断する連帯の可能性を孕むものです。しかし、本シリーズにおいて参照されるオードリー・ロードの言葉が指摘するように、シスターフッドが「同質性」を前提としたとき、それは人種、階級、セクシュアリティ、文化的背景といった差異を不可視化し、異なる立場が交わる過程で生じる摩擦や葛藤、時に決裂に至る経験を周縁化してしまう危険を伴います。差異を抑圧した連帯は、結果として既存の権力構造を再生産するものとなりかねないのです。
両作家の実践が示すように、社会的に構築された理想に対して私たちは、ときに同調し、逸脱し、転覆させること、あるいはそのいずれでもあり、いずれでもない状態を欲望します。絶えず変容するこの欲望の運動は、「誰が」という主客の特定を超えて、「どのように」理想が欲望され、共有され、再生産されるのかという政治・社会・文化的構造へと意識を向けることを促します。これらの構造を見つめ直すことで、規範的な理想像の隙間や外側に広がる、異なる生の可能性に思いを巡らせることができるのではないでしょうか。
Lea Embeli
Lea Embeliは、主に絵画を中心に制作を行うアーティストです。セルビア・ベオグラード藝術大学応用芸術学部応用絵画学科を卒業し、同大学院修士課程を修了。在学中、セルビア教育・科学・技術開発省および若い才能のための財団(Dositej)より奨学金を授与されました。学業成績優秀者に贈られるアレクサンダル・トマシェヴィッチ賞、応用絵画分野のULUPUDS賞、故郷パンチェヴォの若手アーティストに贈られるヴチュコヴィッチ賞を受賞。2021年に文部科学省(MEXT)の奨学金を得て、2022年より東京藝術大学油画研究科に研究生として留学。2023年4月より正規生として2度目の修士課程に進学し、2025年3月に同大学を修了。現在も日本とセルビアを拠点にアーティストとして活動を続けています。絵画のほか、2016年より「Zavod」「Bigz」「Kreativni centar」、フランスの出版社「Fleurus」などで書籍の挿絵を手がけています。また、セルビアのToBlink StudiosやBunker、ポーランドのAnimoonStudiosなどで、キャラクターデザイナーおよびコンセプトアーティストとしてアニメーション制作にも携わっています。さらに、2019年から2020年にかけて、ベオグラード応用芸術大学にて絵画技法のティーチング・アシスタントを務めました。

Left : Seated, 2024, acrylic, linen on panel, digital print, 900 × 600 mm
Right : Supernova 1/2, 2025, acrylic on panel, digital print, 250 × 250 mm
山本 れいら(やまもと・れいら)
山本れいらは東京を拠点とするアーティストです。フェミニズムおよびポストコロニアルの視点から日本の社会政治的テーマを探究しています。山本は作品を通して、戦後日本における原子力の歴史や、日本社会における構造的な性暴力を批判し、またアニメやマンガ文化をフェミニズムおよびクィアの視点から再解釈します。シカゴ美術館附属美術大学(School of the Art Institute of Chicago)で学び、帰国後は国内を中心に作品を発表しています。作家活動以外には、東京藝術大学や女子美術大学、メリーランド大学ボルチモア校でゲスト講師を務め、教育の分野でも活動しています。また、インディペンデント・キュレーターとして展覧会の企画も行っており、日本における女性の身体やセクシュアリティに対する国家の管理とその歴史に焦点を当てた初のキュレーション企画が、2024‒25年のニューヨーク拠点の非営利芸術団体apexartによる国際公募で1位に選出されました。

Left : I hate flowers 19, 2024, acrylic on canvas, 727 × 606 mm
Right : Whispers of Defiance 1, 2025, acrylic on canvas, 530 × 455 mm
Lea Embeli
1994 セルビア、パンチェヴォ生まれ
2017 ベオグラード藝術大学 応用芸術学部 応用絵画学科 卒業
2018 同大学院修士課程 修了
2021 東京藝術大学 油画研究科 研究生留学
2025 東京藝術大学 美術研究科 絵画専攻(油画)修了
現在日本とセルビアを拠点に活動中
個展
2025「Venus is the hottest planet」Shimokitazawa Arts(東京)
2020「どう思う?」X Vitaminギャラリー(ベオグラード、セルビア)
2019「Out of touch」Ostavinskaギャラリー(ベオグラード、セルビア)
グループ展
2025
「Meet Your Art Festival」寺田倉庫(東京)
「観の輪郭 / The Self and the Other」Medel Gallery Shu(東京)
「Art Award Tokyo Marunouchi」行幸地下ギャラリー(東京)
「ピテカントロプス」三越コンテンポラリーギャラリー(東京)
「bridge」(biscuit gallery × NISO [イギリス、ロンドン] コラボレーション展)biscuit gallery(東京)
2024
「Sorry, this is (not) for you」(Atami Art Grant 熱海)Ozaki Land Bldg.(静岡)
「Grid Next」biscuit gallery(東京)
「Shibuya Awards」Hillside Terrace(東京)
2023
「Watowa Art Award」Watowaギャラリー(東京)
「Beauty of Big Format」 Salon of the Belgrade Museum(ベオグラード、セルビア)
「未来展」日動画廊(東京)
「どこにいても、そこが家」JR上野ギャラリー(東京)
2021
「第51回芸術サロン」国立美術館(パンチェヴォ、セルビア)
2020
「芸術の秋ビエンナーレ」(ソンボル、セルビア)
「私的価値」スイスレジデンス(ベオグラード、セルビア)
2018
「Festum」学生文化センター(ベオグラード、セルビア)
2017
「This changes everything」ニシュ・アート・ファウンデーション(ニシュ、セルビア)

Left : グループ展『Art Award Tokyo Marunouchi』(2025、行幸地下ギャラリー、東京)会場風景
Right : 個展『Venus is the hottest planet』(2025、Shimokitazawa Arts、東京)会場風景 Photo by Hiroko Suzuki
山本れいら
1995 東京都生まれ
2014 東京都立総合芸術高等学校 日本画専攻 卒業
2015- School of the Art Institute of Chicago(シカゴ美術館付属美術大学)
現在東京を拠点に活動中
個展
2022「Who said it was simple?」Ritsuki Fujisaki Gallery(東京)
2021「After the Quake」(Produced by SOUYA HANDA PROJECTS)三越前福島ビル(東京)
グループ展
2025
「Atomic Cowboy: The Daze After / Take It Home: for (__) Shall Not Repeat the Error」
NJCU Visual Arts Gallery(ニュージャージー、アメリカ)
「”Deconstructive Decoration” by Souya Handa Projects」アートかビーフンか白厨(東京)
「 『元始女性は太陽だった』のか?(In the beginning, Womankind was the sun – Weren’t we?)」
KOTARO NUKAGA Three(東京)
「Take it Home, for (__) Shall Not Repeat the Error [Manhattan Project]」apexart(ニューヨーク、アメリカ)
2023
「Take it Home, for (__) Shall Not Repeat the Error(東京巡回展)」バズチカ(東京)
「Take it Home, for (__) Shall Not Repeat the Error」そごう広島(広島)
「UTSUTSU-A LIMINALISM OF JAPANESE CONTEMPORARY ART」Pellas Gallery(ボストン、アメリカ)
「NEW ART OF YOUNGER 2023」乙画廊(大阪)
「Usual group show at an emerging gallery」Ritsuki Fujisaki Gallery(東京)
2021
「Bangkok Biennial 2021 HOMETOWN TOKYO」same gallery(東京)
2020
「New New New Normal」Gallery Momo Projects(東京)
2019
「Multi-Cultural Appropriation」川口リアクション(埼玉)
2016
「Draw on Raw Exhibition」Lemoart Gallery(ベルリン、ドイツ)
「Art Bash 2016」School of the Art Institute of Chicago(シカゴ [IL] 、アメリカ)
「Noisy Kids Show」Altspace(ニューヨーク、アメリカ)
「On the VERGE」RHE Siragusa Gallery(シカゴ [IL] 、アメリカ)
2012
「第八回ベラドンナアート展」東京都美術館(東京)
キュレーション
2025
「『元始女性は太陽だった』のか?(In the beginning, Womankind was the sun – Weren’t we?)」
KOTARO NUKAGA Three(東京)
アートフェア
2025
「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」寺田倉庫(東京)
2024
「Weekenders」Sansiao Gallery(東京)
「Art Fair Tokyo 2024」東京国際フォーラム(東京)
2023
「EASTEAST_TOKYO 2023」科学技術館(東京)
アワード
2024 apexart International Open Call 2024-25, 1st place
2016 Art Bash教授推薦
2015-2019 School of the Art Institute of Chicago、Distinguished merit scholarship
2012 第八回ベラドンナアート佳作

Left : 個展『After the Quake』[Produced by SOUYA HANDA PROJECTS](2021、三越前福島ビル、東京)
会場風景 Photo by Miri Lin, Courtesy of Souya Handa Projects
Right : グループ展『「元始女性は太陽だった」のか?(In the beginning, Womankind was the sun – Weren’t we?)』(2025、KOTARO NUKAGA Three、東京)会場風景 Photo by Kenji Agata