川内理香子「afterimage aftermyth」
2021年6月10日(木)- 7月31日(土)
川内理香子
Rikako KAWAUCHI

2021年6月1日(火)から6日(日)に六本木ヒルズA/Dギャラリーで開催された、川内理香子個展「afterimage aftermyth」の展覧会アーカイブと作品を、作家本人の言葉とともにご紹介します。
(緊急事態宣言のため当初の会期よりも大幅に短縮したことから、こちらでアーカイブをご紹介しております)

[展覧会概要]
川内理香子個展『afterimage aftermyth』
会期:2021年6月1日(火) – 6月6日(日)
会場:六本木ヒルズA/Dギャラリー(〒106-0032 東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズウェストウォーク3階 六本木ヒルズ アート&デザインストア内)
詳細:https://art-view.roppongihills.com/jp/shop/adgallery/kawauchirikako2021/index.html

[展覧会ステートメント]
南アメリカやアフリカの神話に登場する事物事象は、それそのものを現すものではなく、隠された意味を担い、その意味から物語は構成されるとレヴィ=ストロースはいう。表層的な関心からではなく、神話の中で事物に暗喩される意味への興味から、物語の中の事物が画面の中に登場する。それらを描いていく度に、徐々に元の物語や意味といった事物に暗喩されるものへの翻訳を介さずに事物と意味は直結し、イメージ自体が自身の中に残留し始める。意味の思考はイメージの思考ともなり、言語と感覚、意識と無意識の狭間でそれらは浮遊し、画面上で展開されていく。元の意味や物語を起点とし、自身の解釈や思考、イメージの連鎖も入り混じり、多重化しながら展開していく具体物たち。制作を通して1つの画面の中で再構築されるそれらは新しい物語と成り得るか。
川内理香子

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– 今回の個展タイトル『afterimage aftermyth』に込められた想いは?

まずaftermythというのは造語です。
神話を読んで、直接その神話の物語を描いているのではなく、断片的に自分の中に残り続けている、神話の物語のイメージや、レヴィ=ストロースが分析している意味や内容があります。それら残像は、意識的にかもしくは無意識的に、自分にとって大事だったり最も気になる意味内容のものであるから、強く印象に残っているのだと思います。時に断片的なそれらは、描くことで連鎖的に繋がったり、浮き彫りにされたりします。

自分の中に留まっている残像たちが描くことで、輪郭がはっきりしたり、無意識的に気になっていることが表出したり、描きながら意味内容が思い出されたり、そこで理解が深まったり、逆に自分で新たな意味を付随させたり、、。神話自体を追いかけるのではなく、神話の言語を使って自分の思考や、物事やイメージを捉える人間の思考を発見したりするときがあります。

描くことで、新たなイメージ=意味?になっていく自分の制作の流れを込めて、このタイトルにしました。


《EACH HOLE HAS A STORY》2021年、キャンバスに油彩、1303×970mm

– メインイメージになっている《EACH HOLE HAS A STORY》は少し今までと違ったイメージの作品に思えます。この作品について少し詳しく聞かせてください。

もともと、これは骨と動物のヒョウも描こうと思っていて描き始めた作品です。
描いていくうちにヒョウはいなくなり、骨が描きたい、と骨だけの構成になりました。
骨や角は神話をモチーフにし始める前からドローイングの中にも登場してくるもので、神話からではなくとも気になるものの1つです。
その骨と、蜘蛛の巣のような蜂の巣のようなイメージが重なり、今の作品のイメージになりました。
骨の間の空間は蜂の巣の穴のように見えてきて、EACH HOLE HAS A STORYのセンテンスを最後に描き足しました。蜂の巣もとても気になるモチーフの1つ。
この作品は描きながら出てきたイメージで、当初描こうとしていたものとは全く違う完成になった作品です。


左:《SKY things》2021年、キャンバスに油彩、1303x970mm
右:《SUN》2021年、キャンバスに油彩、1620×1303mm(アートフェア東京2021に出展)

– 今回展示している《SKY things》や、先日アートフェア東京で展示した《SUN》は、画面いっぱいにたくさんのモチーフが並んで描かれている作品で、これも最近の流れの一つの様に思えます。こちらの作品についても少し詳しく聞かせてください。

空のイメージが強い作品です。どちらも。
動物たちが空に登る神話は多くありますが、読んだいくつかの神話の中で空に登るのにポイントになる動物がアンテロープ、そしてクマのものがありました。
《SKY things》《SUN》も動物たちの中心、根ぞこに置かれているのはアンテロープ、そしてクマになっていると思います。
空は色々なイメージが見えるところ。
星座もそうやってできたと思うし、色々な情景を空はもたらすものだと思います。
いろんなモチーフが画面いっぱい描かれるのは、そういった無重力の空間の中で色々なイメージが出てくる場所をなんとなくイメージしているからだと思う。

《SKYthings》はアンテロープの角の上に色々なものが続いていきます。
これはアンテロープの角の上に動物たちが重なり合って空まで登り、蜘蛛おばさんが独り占めしていた火を地上に手に入れてくる、という神話が印象的で、この作品はその神話から出てきたイメージです。
動物たちは最初、色々なものを使い、様々な動物の上に乗り、空に登ろうとしますが、アンテロープの角だけが強固でたくさんの動物たちが重なっても折れずに空まで動物たちをたどり着かせることができたという話です。
ただ、その重みでアンテロープの角は今の形状になったという話。
強靭な大きな動物でもその重さに耐えられなかったけど、アンテロープの角は空に届くまでのたくさんの動物たちをのせることができたそうです。
肉体じゃない骨のような部分だったからでしょうか。

《HEROS》2021年、キャンバスに油彩、455×530mm

– 今回登場している動物の中で、川内さんが気に入っている、または思い入れのあるモチーフを選んで、それぞれについて詳しく聞かせてもらえますか? ハリネズミやアンテロープやナマケモノ、キツネなど、以前から登場しているもの、今回初めて登場したもの、どちらから選んでいただいても構いません。

【ハリネズミ(モグラ、ヤマアラシ)】
人間を駆逐する怪物を倒しにいく一人の青年をモグラが助ける神話を読んで、ハリネズミがモチーフとして出てきました。
ヤマアラシやモグラは、大きな図体の怪物にとっては蟻のように目に入らない、目の端に入ってきても小さくて反応しないもの。
モグラは、僕だったら怪物の近くに行けるし、弱点を聞いたり、怪物の側まで穴を掘っていけるよと、人間の英雄を助けます。
その代わり怪物を退治できたら、その暁に怪物の毛皮を僕にちょうだいと人間に話します。
そうしてモグラは怪物がかつてどんな毛皮をまとっていたか忘れずに、自分たちが英雄を助太刀したことを忘れずいられるように、それから先もずっと毛皮をまとうことにしたという神話です。おまけにモグラはそれで暖かさも手に入れたそうです。


《prophet》2021年、キャンバスに油彩、318×410mm

【フクロウ】
フクロウはかつて人間に悪さをする怪物であったという神話から。
人間の英雄がその怪物を退治した際に、お前はこれから人間の役に立つ鳥となれと怪物をフクロウに変えます。
お前は預言者として少し先の未来を人間に知らせるものとなれと。ただ、時々嘘の予言もしなければならない、そのことによって人間たちが自ら考えることを学ぶから、とフクロウに言った。
フクロウは嘘と本当の狭間で、対立するものの狭間で、人間を導く存在である。

その神話と、もともとのフクロウのイメージが重なるところもあり。
神話の中の動物の振る舞いや存在感は自分が思い描くその動物のイメージと重なっているものもあれば想像だにしなかったものもあります。どちらも印象的。


《like a pottery》2021年、キャンバスに油彩、455×380mm

– 今回動物モチーフが多く登場している中で、《like a pottery》と《connector》についても少し詳しく聞かせてください。

これは手と壺がひび割れるような現象が重なり合わさったイメージです。
神話の中で壺が身体や消化を暗喩するものとしてあるので、今までは身体のことを思って壺を描いていたけれど、今度は直接、手などの身体の中に、壺自体に起こる現象が重なってきました。今までとは逆で、直接身体の中に、身体を現すとされるものの要素が重なり合わさって画面に出てきた。
もちろん壺のひび割れだけを現しているのではなく、血管のイメージだったり、色々なものをそこに見られるかなと思います。


《connector》2021年、キャンバスに油彩、380×455mm

ドローイングにはよく登場している人の顔はペインティングの上ではあまり画面の上に見えなかったので描くことが少なかったですが、最近ドローイングの中のものもペインティングに出始め出しました。この作品はそれが顕著に現れていると思います。

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Video by Kazune Yahikozawa (Paradrift.Inc)

以下展覧会風景 Photo by Keita OTSUKA

INSTALLATION VIEW
WORKS
POOPER
2021
キャンバスに油彩, 1620 × 1303 mm
EACH HOLE HAS A STORY
2021
キャンバスに油彩, 1303 × 970 mm
SKY things
2021
キャンバスに油彩, 1303 × 970 mm
Night stroll
2021
キャンバスに油彩, 910 × 727 mm
Night meeting
2021
キャンバスに油彩, 910 × 727 mm
tower
2021
キャンバスに油彩, 530 × 455 mm
HEROS
2021
キャンバスに油彩, 455 x 530 mm
got his color in the swamp
2021
キャンバスに油彩, 455 × 530 mm
HE HAS HIM
2021
キャンバスに油彩, 455 × 530 mm
two bro or ladder
2021
キャンバスに油彩, 455 × 380 mm
like a pottery
2021
キャンバスに油彩, 455 × 380 mm
heart
2021
キャンバスに油彩, 380 × 455 mm
connector
2021
キャンバスに油彩, 380 × 455 mm
BLOOD
2021
キャンバスに油彩, 380 × 455 mm
compass
2021
キャンバスに油彩, 455 × 380 mm
prophet
2021
キャンバスに油彩, 318 × 410 mm
lightning
2021
キャンバスに油彩, 410 × 318 mm
ROCKS
2021
キャンバスに油彩, 410 × 318 mm
Teeth
2021
キャンバスに油彩, 333 × 242 mm
enclose
2019
紙に水彩と鉛筆, 242 x 332 mm
meeting
2019
紙に水彩と鉛筆, 515 × 364 mm
FAMILY, PAST, COMPLEX, DNA, UNCONSCIOUS
2019
紙に水彩と鉛筆, 455 × 380 mm
have
2019
紙に水彩と鉛筆, 333 × 242 mm
Bloody Moon
2017
紙に水彩と鉛筆, 166 × 516 mm
Untitled
2016
紙に水彩と鉛筆, 362 × 515 mm
portrait 3
2018
紙に水彩と鉛筆, 257 x 182 mm
portrait 9
2018
紙に水彩と鉛筆, 257 x 182 mm
portrait 10
2018
紙に水彩と鉛筆, 257 x 182 mm
on the ground
2020
パネルに針金とピン、アクリルボックス, 385 × 310 mm
lying
2018
パネルに針金とピン, アクリルボックス, 474 × 338 × 113 mm