川辺ナホ・宇多村英恵 オンライン上映
2022年11月2日(水)- 11月6日(日)
川辺 ナホ
Naho KAWABE

2022年10月15日(日)- 11月13日(日)にWAITINGROOMで開催中の『STRATA 複数の地層』出展作家である川辺ナホと宇多村英恵 両者の映像作品(過去作)を、Art Week Tokyoの開催期間限定でオンライン公開いたします。
展覧会では、複数のオブジェを組み合わせたインスタレーション作品をメインに発表している両者ですが、表現に用いる様々なメディアの中の一つとして、両者とも映像作品を制作しています。
展覧会と合わせてぜひご自宅でお楽しみください。
 
 
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川辺ナホ
 

 
“Camera Isolata”
2020, オンラインプロジェクト(https://camera-isolata.nahokawabe.net
シングルチャンネルビデオ, サウンド, 35min.12sec.
 
「Camera Isolata」はHamburgische Kulturstiftungの助成により制作されました。この助成では、»Kunst kennt keinen Shutdown (Art knows no shutdown)« というモットーのもと、Covid-19の蔓延により様々な活動が制限される中で、表現者としてこの状況にアプローチしてゆくことが推奨されました。
「Camera Isolata」はラテン語で孤独の小部屋を意味します。もちろん、ロックダウンによって人と会うことができなかった私たちの状況への比喩ですが、同時に英語のカメラ、私たちがオンライン上で出会うため、私たちの上半身を現実世界から切り取ってネットスペースへと転送する、コンピュータや携帯電話に内蔵された小さなデバイスのことでもあります。ネット上の小部屋「Camera Isolata」は、世界に張り巡らされている海底ケーブルのどこか、海の底に発生しているはずです。
川辺はこのプロジェクトに、遠く離れた場所に住む6人のアーティストを招待しました。 Jane Brucker (ヴィジュアル・アーティスト、カリフォルニア)、Miss Hawaii(ミュージシャン、岩手)、Henrik Malmström(写真家、ブエノスアイレス)、Setbyol Oh(照明デザイナー、ベルリン)、Ziyun Wang(画家、広州)、山洋平(画家、ホーチミン)です。2人の人物の「出会い」のビデオが3バージョン制作され、すべてのビデオを同時再生したバージョンをここで上映しています。オンラインのコミュニケーションツールで接続されたアーティストたちは、事前にゲームのルールについて知らされていましたが、それまでお互いに全く知らない者同士でした。
 
 

 
“Aufenthaltswahrscheinlichkeiten / 確率的滞在”
2019, シングルチャンネルビデオ, サウンド, 17min.59sec.
 
水面に反射している動き続ける光が映し出されています。ハンブルク在住だがドイツ出身ではないアーティストたちが語る「よそ者」としての自分を内省する声と、その光の動きはシンクロします。
タイトルのAufenthaltswahrscheinlichkeitenというドイツ語は量子物理学の用語では「確率密度関数」と訳されますが、Aufenthalt/滞在とWahrscheinlichkeit/確率という2つの単語に分けることができます。ここでもあり、そこでもある。同時に起こる存在と不在。そして、外国人の「在留資格」のことをドイツ語ではAufenthaltstitelといいます。永住権を持たない人間はだれしも、ビザ申請のために「外人局」に行く前は落ち着かないものです。滞在(Aufenthalt)の許可がもらえる確率(Wahrscheinlichkeit)は、一体どのくらいだろう?世界の全てを構成する最小単位が、そもそも確率に依っているならば、自分も運命もまた確率に委ねられてしまうのだろうか?私はここに留まれる?それとも荷造りを始めるべきなのか?
ビデオにはドイツ出身の日本人による日本語字幕が付けられていて、そのややぎこちない日本語は、アーティストたちのドイツ語の不完全さに呼応します。
 
 

 
“Eine echte Frau löst jeden Knoten /真の女性はすべての結び目を解く”
2018、シングルチャンネルビデオ、サウンド、49min. 15sec.
 
1956年に旧東ドイツから亡命した女性が、小さな木炭の塊を紐でもう一度一つの木の形にまとめ上げる過程を撮影したビデオ作品。声は、当時の様子を振り返る女性の話です。ドイツが分断されていた時代の郵便の行き来や、ベルリンの東西を横断していた市電に乗って亡命した話など、「国境を越える」ことと「国境があることの日常」を、一人の女性の視点から語ることにより、時代性や社会問題、はたまた人生の不可思議さが透けて見えるようです。また、境界線は拡大すると実は網目状であり、そこをすり抜けていった住民たちの日常があったことを明らかにしています。
タイトルの「真の女性は全ての結び目を解く/Eine echte Frau löst jeden Knoten」とは、彼女が十代だった頃、西ドイツの高校教師から聞いた格言です。「女性」になるにはなんとも高いハードルがあることかと驚いた、当時のその感想を今でも思い出すといいます。
 
 
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宇多村英恵
 

 
“シークレット・パフォーマンス・シリーズ(2009-2012)”
2009-2012、HDビデオ
 
シークレット・パフォーマンス・シリーズは、アーティスト自身が画面の中に小さく無名な人物として登場し、自然や建築物の環境へ、微細かつ連続的な行為で介入する行為を記録した作品です。リハーサルおよびアナウンス無しで、地球上のとある場所で一度だけ行われるパフォーマンスであることが条件です。それらのパフォーマンスは、しばしばパフォーマンスが行われる場所とともに作り上げられ、人生そのもののように再現可能ではなく、ループしたビデオにのみ保存されます。
 

 
 

 
“線が円になるとき”
2013、HDビデオ、6min. 46sec.
撮影地:白翎島(ペンニョンド)、韓国
 
北朝鮮に近接する韓国の島 白翎島(ペンニョンド)(英語表記:Baengnyeongdo)で行なったパフォーマンスビデオ。満ち引きで潮が引いた砂浜で行ったパフォーマンスで、中央に立つ棒を一人の人間と見立て、その周辺の国境や分断線などの境界線について思考する作品です。棒を中心に線を描いていき、その上に円を描いていきます。
線は北朝鮮と韓国の分断、円は福島の放射能警戒区域を想起させますが、線が描き加えられていくと、「境界」という線はだんだん意味をなさなくなります。北朝鮮と韓国を分断する線は、海の上には存在せず地図上のみに存在し、棒(人間)自体も変わらないが、目に見えない線が重ねられ、棒(人間)の属性を決めていきます。最後に、画面上では線にしか見えない、画面枠を越えた大きい円が描かれます。そして、「人」という漢字に似た形に棒が立てかけられ、パフォーマンスは終わります。
 
 

 
“Snow Balloon”
2011、HDビデオ、1min. 30sec.
撮影地:ハーキヤーヴィ、フィンランド
 
風船と風のデュエット。